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技術情報(論文)


パーソナルコンピュータを使った睡眠自動解析システム開発の試み

はじめに 

 睡眠ポリグラフ検査(PSG)により発生する膨大な記録の分析を効率よく行うのに、安価で簡便な睡眠段階判定機器の開発と普及が望まれている。著者らは睡眠の総合的な研究の遂行にはある程度の規模の自動化装置が不可欠であると考え、ミニコンピュータ1),スーパーミニコンピュータ2)、さらにワークステーション3)を使った睡眠自動解析システムの開発と基礎的な応用を行ってきた4)〜9)。最近では高性能なパーソナルコンピュータを容易に入手することが可能となり、自動解析システムもこれを活用するのが最適であると判断して、現在アプリケーションの改良とこの移植に着手している。開発の要件としては1)視察判定過程にできるだけ従う、2)GUI(graphical user interface)により操作性の大幅な向上を図る、3)多くの客観的な分析情報を提供する、4)実用化を目指す、5)アプリケーションの継続的な機能強化を図り、これを広く提供していくことを基本とした。現在開発中のこの新しい自動解析システムの概略を紹介する。 

I.システムの構成 

 開発にはPentiumU 333MHz搭載のパーソナルコンピュータ(128MBメモリ,4.1GB磁気ディスク,640MB光磁気ディスク,21インチモニタ,レーザプリンタ)を使用した。21(または19)インチモニタは分解能が1,600×1,200ドットで,ペーパーレス表示としては理想的であるが、1,280×1,024ドット(ドットピッチは0.26mm)程度の分解能を持ち、表示が鮮明で眼精疲労がより少ないモニタであれば実用上問題はない。オペレーティングシステムはWindows NT4.0を使用しているがWindows 95と98でも対応できる。アプリケーションの開発は主にGUIに関する部分をvisual basicで、波形分析に関する部分をvisual fortranで行った。

 睡眠生理現象を収集するAD変換器にはさまざまな仕様のものがあり、自動解析システムでは収集ソフトウェアも含めて現在のところこれを特定していない。ただ、分解能としては入力レンジにもよるが12または16bitのものが必要であろう。自動解析を行うにはヘッダ(識別)ファイルと
0,1,2‥‥n,0,1,2…nチャンネル並びのバイナリデータが、磁気ディスクまたは光磁気ディスクにあればよい。ヘッダファイルに関して既存のものは一部の情報(たとえば入力チャンネル数,収集日時等)しか利用できず、新たに作成する必要がある.著者らは独自で簡易なヘッダファイルを使用しているが、データの共通性を考えると、日本睡眠学会が採用(1998年9月)した「PSG共通フォーマット」10)への対応も必要であろう。 


U.分析の対象と条件 

 分析はRechtschaffenとKales(以後,R&Kと略す)の国際基準11)に従って、脳波(C4一A1とC3−A2,時定数0.3,高域遮断周波数30Hz)、筋電図(頤筋,時定数0.003,高域遮断周波数500Hz)、眼球運動(眼窩外側縁2チャンネル,時定数0.3,高域遮断周波数30Hz)を対象にし、サンプリング周波数は500Hzとした。脳波の分析には任意な1チャンネルを選択する。モニタへの波形表示は12チャンネルまで可能であり、現在、心電図と睡眠時無呼吸症候群診断のため呼吸運動の分析法を開発中である。 


V.波形分析 

 自動解析システムの解析精度は波形分析、とくに脳波の分析法によってほとんど決定される。著者らは脳波を1)インターバルヒストグラム(interval histogram)法による簡易的な周波数分析を行って、δ2波(0.5〜2Hz)、δ1波(2〜4Hz)、θ波(4〜7.5Hz)、α波(7.5〜13.5Hz)、β1波(13.5〜20Hz)、β2波(20〜30Hz)、σ1波(11.1〜14.7Hz)、σ2波(11.6〜15.2Hz)、σ3波(11.9〜15.6Hz)、σ4波(11.1〜16.1Hz)、γ波(30〜100Hz)の各周波数帯域に分類、2)周期振幅分析により高振幅徐波を検出、3)波形認識法により睡眠紡錘波を検出,4)周期振幅分析を応用してK複合波を検出した.筋電図は1区間の平均振幅と,一過性筋電位の増加による影響を取り除くため最も振幅の低い2秒間の平均振幅を求めた。これはREM段階と他の睡眠段階を識別するのに役立つ。眼球運動はゼロクロス−振幅法によりチャンネル間の逆位相の状態を調べた。このほか、体動や増幅器のオーバーレンジによるclipping time等の波形パラメータを求めた 1) 2)。


W.システムの機能と自動解析の分析例 

 アプリケーション(仮称Sleep Ukiha VersionO.00)を起動するとメニュー・ウィンドウが開かれ、ファイル(「識別ファイルの選択」、「識別ファイルの作成」、「波形の表示」)、設定、波形分析(「波形分析の実行」)、段階判定(「睡眠段階の判定」)、表示点検(「波形の表示と点検」、「ダイアグラムの表示」)、睡眠変数(「区分点設定(視察)」、「区分点設定(自動)」)、印刷(「睡眠パラメータの印刷」、「波形パラメータの印刷」、「ダイアグラムのプロット」、「原波形のプロット」)のメニュー・バー(括弧内は主なプルダウン・メニュー)が表示される。自動解析の操作は、任意なメニューとこれに続くプルダウン・メニューや各種ボタンをマウスで選択するだけの快適なGUI環境下でほとんど達成できる。またキー入力の方が操作性の高い機能については、この割付も行っている。 

 自動解析システムの応用として、すでに別のコンピュータでAD変換(12bit,±1.25V)された健康な男子学生(年齢23歳)のPSGバイナリデータ(9時間29分の記録)を、ネットワークを介してパーソナルコンピュータに転送し分析を試みた。メニューの機能の概略と分析手順、分析で求められるさまざまな情報は次のとおりである。

 ファイルの「識別ファイルの選択」で既存のヘッダファイルを選択、または「識別ファイルの作成」で新規作成する。識別情報には、これ自身のファイル名、コメント、収集・分析年月日と時間、AD変換器の仕様、収集チャンネル数、分析単位(20または30秒)、全記録時間(秒)と区間
数、分析開始と終了区間、収集チャンネルに対する睡眠生理現象の割付とキャリプレーションの設定等がある。分析例でのチャンネル数は5、分析単位は20秒、全記録時間は34,140秒で1,707区間、分析開始と終了は1から1,707区間である。キャリプレーションは事前に測定したこの振幅値を設定した。PSGの開始と終了が実際に分析を行う区間と異なる場合は、「波形の表示」機能で一度波形を観察して分析の開始と終了区間を決定することができる。このメニューには、キャリプレーションの自動測定機能を付加することにしている。

 設定はモニタ表示する波形の速度、電圧軸、間引き間隔の設定機能である。電圧軸と間引き間隔はチャンネルごとに設定できる。 

 波形分析の実行により前述の波形パラメータが求められる。9時間29分の記録を分析するのに1分間を要しない。脳波の分析はC4一A1を選択した。 

 段階判定により一次と二次の睡眠段階の自動判定が実施される。一次判定で判定不可能な区間があると(分析例では5区間)、「波形の表示と点検」機能(図1)がこの区間を明示して自動的に表示されるので、視察判定で補って、次に二次判定(一次判定に点検を加える)を実施した。

 自動判定論理はR&Kの国際基準を基本とし、これに自動判定上の工夫を加え、波形パラメータを枝別れ方式で組み合わせて構築した。

 表示点検の「波形の表示と点検」機能(図1)で表示される睡眠段階はたえず更新されたものである。ここでは自動判定結果の点検と訂正が可能である。「ダイアグラムの表示」は睡眠図と波形パラメータの経時変化を表示(図2)する機能であり、経時上の任意な箇所を選択することによってその区間の波形を再表示(図1)することができる。図2の睡眠図は、二次判定に対し99区間の視察による訂正を行ったものである。最も訂正の多かったのは睡眠段階3から睡眠段階2への43区間、次に睡眠段階2から睡眠段階1への13区間であった。前者の訂正の主な理由は、今回自動判定論理にK複合波を加えていなかったこと、比較的長く続く睡眠段階2の期間にみられた境界線上の睡眠段階3を、視察判定でスムージングしたことによるものである。また後者は、運動時間後に脳波上に混入した比較的大きな電位の変化を高振幅徐波の一部として検出したためである。このPSG記録は各睡眠段階を特徴づける睡眠生理現象の指標が明確にみられ、さらにREM段階への移行とREM段階から他の睡眠段階への移行がスムーズであり、比較的自動解析しやすい分析例であった。
 睡眠変数は睡眠図の各区分点(入眠,REM段階の終り等)を任意に設定または自動検出して、睡眠パラメータ(表1〜3)を求める機能である。

 
 印刷の「睡眠パラメータの印刷」を選択すると各睡眠段階の出現量(表1)、睡眠周期ごとの各睡眠段階の出現量(表2)、その他の睡眠パラメータ(表3)、さらに各睡眠段階ごとの波形パラメータの出現量(図3,表4)がモニタに表示され任意に印刷することができる。「波形パラメータの印刷」は図2の波形パラメータの詳細表示と印刷機能で、これらはExcelファイルへの変換が可能である。「ダイアグラムのプロット」と「原波形のプロット」の選択により、レーザプリンタヘの鮮明な作図を行うことができる。 




図1 波形の表示と点検機能 

 モニタ上に区間番号、時刻、データ名、全区間数、未判定区間数、主要な波形パラメータの値、睡眠生理現象波形と睡眠段階(この表示例は一次判定後で未判定区間を含んでいる)に関する情報、点検作業のための各種ボタン等が表示される。波形は上から眼球運動(EOG−L、EOG−R)、筋電図(EMG−C)、脳波(C4−A1,C3−A2)である。波形表示の速度、電圧軸、間引き間隔はここからも設定できる。 
 自動判定された睡眠段階は、脳波表示(C4−A1)の中央真下)と睡眠段階バー、睡眠図(時間軸真下の縦バーは未判定区間の明示)で観察することができる。点検作業は検索ボタンの< >前後1区間の移動、≪≫前後への連続移動、■連続移動の停止、<??>未判定区間への移動機能を使い、訂正作業は該当する睡眠段階の設定ボタン(?は未判定または判定保留を示す)を使って簡単に行える.訂正された内容は脳波表示、睡眠段階バー、睡眠図へただちに反映される。そのほか、睡眠段階バーと睡眠図の任意の箇所を選んで、また任意の睡眠段階を指定して飛び越し移動することもできる。
 


  図2 睡眠段階と波形パラメータのダイアグラム 

 上から視察による訂正を加えた睡眠図、インターバルヒストグラム法により分析した各周波数帯域(δ2波〜β2波,γ波,σ2波,γ波とσ2波はδ2波〜β2波を100としたときの割合)の出現率、睡眠紡錘波(Spindle)、K複合波(K−Comp)、高振幅徐波(H-�δ)、筋電位(EMG−1は1区間の平均、EMG−2は一過性に増加した筋電位を除去)、眼球運動のチャンネル間逆位相(EOG20)の変化を経時的に示したものである。
 各睡眠段階のうちREM段階は一般的な出現量より多く、覚醒段階はみられなかった(表1)。睡眠段階3と睡眠段階4は眠りの前半に多く以後漸減し、睡眠段階2は睡眠第2周期以降ほぼ安定して出現し、REM段階は後半に増加している(表2)。睡眠周期は第2周期以降130分以上と長く、REM持続時間は睡眠の経過に伴って延長している(表3)。
 各睡眠段階における波形パラメータは、睡眠段階1でβ2波が増加、睡眠段階2でσ2波と睡眠紡錘波の顕著な増加、睡眠段階3と睡眠段階4でδ2波と高振幅徐波の顕著な増加と睡眠紡錘波の増加、REM段階でβ2波と眼球運動のチャンネル間逆位相の増加、筋電位の低下が観察された(図2、3)。睡眠紡錘波は睡眠段階2において出現量が最も多く、周波数に大さな差はみられない、振幅は高い。持続は長く波数も多いことが認められた(表4)。 








 今後の課題 

 著者らはミニコンピュータを使った自動解析システムで、視察判定との一致率は89.1%であったと報告した1)。このとき一致率が低かったPSG記録のいくつかは、視察判定でも判読に時間を要する難しいものであった。また睡眠段階1とREM段階の自動判定成績が比較的悪く、これは自動解析の一般的な傾向と思われた。前者の判読を困難にする原因として脳波、とくに睡眠紡錘波などの特徴波の出現量、周波数や振幅の個体差によるもので、個別に分析条件の設定を可変にできるなどの検討が必要である。後者の主な原因として、REM段階から他の睡眠段階への移行パターンがさまざまであったことに起因した。これは基準を満たすに至らないK複合波状の波の認識、頭蓋頂部鋭波と鋸歯状波の認識、さらに運動覚醒を検出することで解決できると考えている。 
  
1996年に日本睡眠学会睡眠段階自動判定小委員会(現コンピュータ委員会)から「睡眠段階判定国際基準の自動判定のための補足定義および修正」の提案がなされ13)、さらに日本睡眠学会から「学習用PSGチャート」の発刊も予定されている10)。R&Kの国際基準に加えてこれらの教科書を参考にすることで、著者らの自動解析システムは一層の改良が可能であると確信している。
  

 本研究の内容の一部は文部省科学研究費基盤研究(C)(課題番号08680444)の補助を受けて遂行し,第27回日本脳波・筋電図学会学術大会、第23回日本睡眠学会定期学術集会において発表した。また自動解析システムの実用化を目的として、久留米・鳥栖テクノポリス「ステージアップ型研究開発事業」の委託を受け、現在開発を継続中である。 



 文   献 

1)Kuwahara H,Higashi H、Mizuki Y et al:Automatic real-time analysis of human Sleep stages by an interval histogram method.Electroenceph Clin Neurophysiol 70:220−229,1988. 

2)Kuwahara H,Tanaka M,Mizuki Y et al:An automatic sleep−stage analysis system with offline high-Speed processing using a super mini-computer. Kurume Med J 43:243−248,1996. 

3)桑原啓郎,内村直尚:ワークステーションを使った睡眠自動解析システム開発の試み- Graphical User Interface による操作性の向上と高速処理- .筑水会神経情報研究所年報15:1-8,1996. 

4)Mizuki Y,Kuwahara H,Isozaki H et al:Effect ofethyl loflazepate(CM6912)on sleep in normal humans.Meth and Find Exptl Clin Pharmacol 10:401−406,1988. 

5)Tanaka M,Mizuki Y,Kuwahara H et al:Effect of neurotropin on polysomnographic patterns in normal humans.Int Clin Psychopharmacol 3:239−244,1988. 

6)田中正敏,桑原啓郎.磯崎宏,ほか:Benzodiazepine 系睡眠薬と終夜睡眠パターン -  新しいbenzodiazepine 系睡眠薬,quazepam(Sch 161)の健康人終夜睡眠パターンに及ぼす影響-.臨牀と研究67:223−232,1990. 

7)Suetsugi M,Mizuki Y,Hotta H et al:Effec of butoctamide hydrogen succinate on nocturnal sleep in normal humans.Neurosciences 21:131-141,1995. 

8)Kuwahara H,Suetsugi M,Mizuki Y et al:Automatic analysis of sleep spindles−Assessment in one case treated with a benzodiazepine anxi-olytic drug-,Kurume Med J 43:107−113.1996. 

9)Kuwahara H,Tanaka M,Isozaki H et al:Analysis of sleep EEGs by the interval histogram method - Validity of the baseline night as a control and the effect of ethyl loflazepate(CM6912)- Kurume Med J 43:305−312,1996. 

10)日本睡眠学会コンピュータ委員会:コンピュータ委員会報告.日本睡眠学会ニューズレター18:6,1998. 

11)Rechtschaffen A,Kales A:A manual of standardized terminology,techniques and scoring system for sleep stages of human subjects.Public Health Service,U.S.Government Printing Office,Washington,D.C.,1968. 

12)桑原啓郎:睡眠自動解析.臨床脳波と脳波解析−脳波解析の基礎とその応用−,第1版,鶴紀子,新興医学出版社,東京,1999(印刷中). 

13)日本睡眠学会睡眠段階自動判定小委員会:睡眠段階判定国際基準の自動判定のための補足定義および修正。 日本睡眠学会二ューズレター13:5−14 1996. 



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